新型コロナウイルス の影響により企業の資金調達環境が変化する中で、インターネット上で個人から資金を募るクラウドファンディングに注目が集まっています。
現在の市場環境と今後の可能性について、クラウドファンディングシステム「CrowdShipシリーズ」を販売しているグローシップ・パートナーズ株式会社・代表取締役の松井晴彦氏と、グループ会社でクラウドファンディングのプラットフォームサービスを展開している株式会社ZUUの冨田和成氏が語り合いました。
神奈川県出身。一橋大学在学中にIT分野で起業。2006年大学卒業後、野村證券株式会社に入社。
本社の富裕層向けプライベートバンキング業務、ASEAN地域の経営戦略担当等に従事。
2013年3月に野村證券を退職。同年4月に株式会社ZUUを設立し代表取締役に就任。
現在は複数のメディアにて連載を持つなど、本業とシナジーのある分野において金融専門家としての活動も行っている。
30年に亘り、一貫してIT、ビジネスコンサルティング業務に従事。
アロウズコンサルティング代表取締役社長、EYアドバイザリー代表取締役社長を歴任。
2016年にグローシップ・パートナーズ株式会社を創業し、同社代表取締役社長に就任。
コンサルティングサービスに加え、Fintech、RPA、AIなど先端テクノロジーを利用したサービスの開発・提供を行なっている。
2017年には、クラウドファンディング事業者向けITプラットフォーム「CrowdShip Funding」をリリースし、多数の事業者に提供している。
高まる融資型クラウドファンディングのプレゼンス
――新型コロナウイルス の影響で資金繰りに苦しむ企業も増えています。こうした中で、新たな資金調達手段としてクラウドファンディングが注目を集めています。
冨田:クラウドファンディングに関する問い合わせは弊社にも大量にきています。弊社のグループには、グローシップ・パートナーズさんのシステムを導入している融資型クラウドファンディングのクールと株式投資型クラウドファンディングのユニコーンという企業があります。
この2社への問い合わせは、新型コロナウイルスの影響が出始めてから数倍にもなっています。これは、資金調達環境が変化していることに危機感を持っている企業や、コロナ禍がきっかけでクラウドファンディングを知った企業が多いことを象徴しています。
現在、一般的な知名度が高いのは購入型かもしれませんが、クラウドファンディングの調達金額から計算すると大半はいまだに融資型です。
現在、マーケットでの資金調達環境、銀行の融資体制も明らかに変化しつつあります。もちろんコロナ関連融資をやらざるを得ない状況ということもありますが、そういったものを除くと、通常の融資体制が明らかに厳しくなってきています。
そうした中で、クラウドファンディングの果たす役割は大きくなりつつありますし、この流れはさらに加速するでしょう。
また、コロナ禍により株価が暴落したことをきっかけに、多くの個人投資家が証券口座を開設しました。しかし、株式市場ではいつ何が起こるかわかりません。
リーマンショックの際も市場が持ち直した後は穏やかさを保っていましたが、2009年の2月に「二番底」をつけています。
コロナショックにも二番底があるのかはわかりませんが、実体経済に影響していることは間違いありません。何ヶ月も連続でキャッシュフローが止まってしまうと、資金に余裕があった会社でも倒産してしまいますし、倒産が連鎖すれば二番底が訪れる可能性も否定できません。
こうした状況下では、安定した投資機会である融資型クラウドファンディングの需要は高まるでしょう。私は、融資型クラウドファンディングを社債市場に近いマーケットだと捉えています。
会社が倒産しない限り、元本に利子がついて戻ってくる。そうした良質な案件を増やしていけば、投資の選択肢が限定される今の状況は、クラウドファンディング業界全体や個人投資家にとって追い風になるのではないでしょうか。
松井:弊社のお客様も、3月以降の口座開設が急増しており前年の2割増となっています。他の事業者からも同様の話を聞いています。
日本の個人金融資産が総額1,800兆円ある中で、普通預金、定期預金に眠っているお金は1.000兆円です。自身の金融リテラシーを磨いて様々な金融商品を買う、もしくは株に投資するところまで踏み切れない人がたくさんいることは、昔から感じていました。
そうした状況の中でもクラウドファンディングは、比較的ハードルの低い投資法だと感じてもらえているように思います。以前はクラウドファンディングというと、「ハイリスク・ハイリターンで特殊な人だけが行う投資」というイメージがありましたが、現在は一般投資家がどんどん参入しており、案件も増えてきています。
一口50万円程度で、マンションの賃料収入をベースとした案件や太陽光エネルギーを扱う案件をリリースすると、それがあっという間に成立してしまうということが起きているのです。
1800兆円の個人金融資産がいっきに動き出す可能性も
冨田:私が証券会社に勤めていた時に、一部のお客様から人気を集めていたのは海外のハイイールド債券やハイイールドETFでした。日本にはあまり市場がなく、ETFの売買高もそれほどありませんでしたが、私は海外のマニアックな投資商品をリサーチして、他の証券マンが提案しないような商品をお客様に提案していたのです。
ハイイールド債券は、格付けが低い会社の債券なので、デフォルトのリスクが高いという問題がありました。しかし、それは1名柄に集中した場合なので、長い目で見てポートフォリオを組むことができれば、例えば100名柄中の2名柄がデフォルトしても、単純計算で2%の値下がりしか起きないという理屈になります。
ハイイールド債券の利回りは5〜7%あるので、「負けにくい」という考え方をすることができるのです。
国債の金利が低いなかで、ある程度リスクを下げつつ、安定した利回りの融資型クラウドファンディングの商品が出てくれば、半分以上が預金として眠っている1,800兆円という世界第2位の日本の個人金融資産が一気に動き出す可能性もあると思います。
そういった市場を作ることができれば、企業にとっては借り入れのチャンスになり、個人にとっては投資機会になります。医学の進歩により人類の健康寿命はどんどん伸びているので、資産の寿命をそれに合わせて伸びていかないと、結果としてお金が尽きてしまいます。
こうした側面を考慮すれば、融資型クラウドファンディングの市場を広げることは、社会貢献にもなるのではないか、と考えています。
松井:一般の投資家が、5%の利回りのハイイールドETFや債券にアクセスできるようになれば、大変な人気になるでしょう。
もちろん、リスクが0になることはありませんが、安定して5%の配当がつくような商品には、多くの人はアクセスすることができません。
手数料の高い投資信託などではなく、こうした金融商品があるということを多くの一般投資家に知っていただきたいと思いますね。
制度面でも、クラウドファンディングを後押しする環境が整い、投資へのハードルは低くなりました。個人情報に基づいた同意書にサインする必要がなく、ハンコもいりません。
クリックするだけで売買契約が成立するので、販売する側も事務コストを抑制することができます。
流動性が高まることで市場は爆発的に成長する
冨田:私が普段から提唱しているお金の考え方として「4つの資本」と呼んでいるものがあります。個人のバランスシートを考えた時に、金融資本、固定資本、人的資本、そして事業資本という4つの資本があり、それぞれの資本が流動化していく、という考え方です。
例えば、現在では、人の価値が信用スコアで測れるようになっていますし、個人の時間をクラウドソーシングで3時間ごとに切り出して販売すると言ったように、「人的資本」の流動化が進んでいます。
各マーケットにおいて流動性が高まれば、市場が爆発する可能性も高まってきます。「株券」という画期的な発明により、株式市場が生まれ、株の売買は爆発的に増えました。
マーケットにおいて流動性は非常に重要なのです。
もちろん現状のクラウドファンディングは売買がすぐに成立する状態ではありません。しかし、融資型クラウドファンディングは、今までは5年ないしは10年がほとんどだった債券の投資サイクルを6〜12ヶ月、長くても18ヶ月程度に短縮しているのです。
銀行の定期預金でも半年でリターンが返ってくることはほぼありません。このタームの短さは、資金調達側にとっても新たな資金を短いスパンで調達できるという魅力があります。
流動性がさらに高まっていけば、融資型クラウドファンディングの市場は「爆発」し、非常に大きなマーケットになるでしょう。
松井:現在では、社債をブロックチェーン上でトークンとして発行し、資金調達を行うという動きもありますね。
冨田:STO(Security Token Offering)ですね。日本では、規制の問題も残っていますが、急速に業界団体などもできつつあり、マーケットの土壌ができ始めている段階です。弊社も関心が高く、非常に注目しているマーケットのひとつです。
松井:STOの規制が緩和され一般化すれば、冨田社長がおっしゃるようにマーケットが爆発するのでは、と期待しています。
例えば、海外の投資家にとって日本の不動産はとても魅力的なものです。しかし、海外からの場合、手続きの問題もあり、なかなかアクセスができません。反対に日本の不動産投資家も海外の不動産を購入することは困難です。
しかし、トークン化されることで流動性も高まり、売買も活発に行われるでしょう。これによって、クロスボーダーの取引は促進されると思っています。さらに、クラウドファンディングとセキュリティトークン、デジタル化は、非常に親和性があるので、市場さえ形成されれば、大きな可能性を秘めていると思います。
信頼性が高く、魅力的な案件が増えている
冨田:先程、松井社長がおっしゃったように、これまでの融資型クラウドファンディングは、「ハイリスク・ハイリターン」という案件も多くありました。
しかし、最近では一般的に信頼度の高い企業が、調達先の分散の目的で、クラウドファンディングを利用する流れが出来つつあります。
ひとつの借り入れに依存していると、借り入れ停止条件にヒットしてしまったり、財務状況が悪化したりするなどといったリスクが高まりますが、クラウドファンディングという新たな資金調達手段を持つことでリスクを下げることができるのです。
もうひとつ、企業としては、個人の方に対して「ファンになってほしい」「自分たちを応援してほしい」という思いがあります。
そういった背景もクラウドファンディングが盛り上がっている要因の一つでしょう。
飲食店やエンタテインメント系のサービス、輸送業、グッズ開発などの企業は、個人に対してサービスを提供しているので、個人が企業に資金を提供してリターンを得るという循環ができると、“ファン株主”、“ファン投資家”が生まれ、クラウドファンディングがより広がっていくと思います。
松井:融資型にも株式投資型にも言えることですが、地方のインフラに関わる企業にクラウドファンディングを活用してもらいたいと思っています。
購入型クラウドファンディングとの相性も非常に良くなるので、地域のファンたちが投資してインフラが成り立っていくような形ができると良いですね。
店舗を開店するときも、購入型クラウドファンディングであればPLインパクトも与えられます。
地域で一体型のクラウドファンディングができて、ファンを囲い込めるような商品ができるといいと思います。
例えばコンビニは2店目を持つのが非常に難しいと言われているのですが、2店目を持つことでオーナーは経営が楽になるそうです。
そのため、周囲の人々がコンビニに投資する「コンビニの出店ファンド」ができないかという話もあります。地方にはこうしたクラウドファンディングの需要が隠れているのではないかと思いますね。
セキュアで安定した「CrowdShipシリーズ」
――最後にCrowdShipシリーズの特徴を教えてください。
松井:特徴はふたつあります。ひとつは、金融事業を支えるシステム基盤なので、セキュアであるということです。これはシステム面だけではなく、業務的な側面においても同様です。
投資家が投資を行い、企業が分配・償還し、1年経って税金の計算をします。金融庁も検査にくるので、受注状況などを開示する必要があります。
そういった場合に、台帳やデータの整合性をとることができるため、安心して業務ができることがCrowdShipシリーズの強みです。
もう一つは、業務効率をサポートできる点です。
シンプルにいうと、自動化にこだわっています。投資商品が小口化しているので、個別の案件をマニュアル処理していてはビジネスが成り立ちません。
投資家の申請、承認、ファンドの募集、受付、分配、償還、税金処理、メールでの連絡、これらをすべてシステム化して自動で行うことができます。
そのため、利用者はオペレーション人数を最小化して、投資家をいかに集めるか、どんな魅力的な商品を組成するのか、という部分にリソースを割くことができるのです。
冨田:クラウドファンディングという金融サービスを運営する中では、システムの障害は大きなリスクです。一度障害があっただけでも、SNSなどで口コミが広がり、システム会社の信頼はなくなってしまいます。
もちろん現在のクラウドファンディングは、証券ほど直接のインパクトはないものの、お金を預かるサービスは安全、安心、信頼、信用が何よりも大事です。
それは私も身に染みて感じていることです。なので、システムの安定性については今後も投資し続けたいと思います。