不動産証券化の在り方を変えるかもしれない、「セキュリティトークン」をご存じでしょうか?
今、現物不動産を介した新たな資金調達手段として、不動産STO(Security Token Offering)という手法が注目を集めています。
従来の資金調達との違いはどこにあり、また、不動産クラウドファンディングとはどのように関連してくるのでしょうか。
この記事では、セキュリティトークンの定義や現状などを踏まえ、セキュリティトークンを用いた不動産証券化について詳しく解説していきます。
セキュリティトークンとは
セキュリティトークンとは、ブロックチェーン(分散型台帳技術)上に発行された、デジタル有価証券のことです。
この場合のセキュリティは、有価証券を意味します。
有価証券とは、財産的価値を示す書類全般を示す言葉で、それを電子化したものがセキュリティトークンというわけです。
セキュリティトークンそのものには、現物資産の裏付けがあります。
仮想通貨などのユーティリティトークンは、それ自体に通貨的価値があることで様々な商取引を行うことができます。
一方、セキュリティトークンは証券の価値を示すもので、既存の債権や株式などと同じジャンルに属し、権利を証明するものです。
STO(Security Token Offering)は、このセキュリティトークンを用いた資金調達方法のことを意味します。
不動産クラウドファンディングとセキュリティトークンとの関連性
現行の不動産クラウドファンディングは、インターネットを介して事業者が不動産の運用で得られた家賃収入や売却益を投資家に分配するという仕組みですが、
不動産ファンドにSTOを用いることで、クラウドファンディングのプロセスが自動化され、事業運用コストの削減が期待できます。
このようなセキュリティトークンを用いた不動産ファンドの資金調達の手法を、不動産STOと呼びます。
不動産STOでは、不動産に対す見返りとして投資家にセキュリティトークンが分配され、配当、償還が自動的に執行されるようになります。
セキュリティトークンを用いた不動産証券化の事例
STOを用いた不動産証券化の取り組みは、すでに国内外でいくつか行われています。
例を挙げると、2020年、LIFULL株式会社が米 Securitize inc.と共同で、不動産セキュリティトークン発行スキームの実証実験を行いました。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000125.000033058.html
出典:PR TIMES「LIFULL、不動産セキュリティトークン発行スキームの実証実験を実施」
ブロックチェーン技術により可能となった、契約の締結・履行を自動で行うスマートコントラクトによって、運用コストの削減や、投資家保護、地方創生が期待されます。
セキュリティトークンを用いた不動産証券化の取り組みが行われている背景には、平成29年の不動産特定共同事業法の改正があります。
出典:「クラウドファンディング等の小口資金を活用した小規模不動産特定共同事業について」
この改正では、地方創生を促進する名目で、小規模不動産特定共同事業について定められました。
小規模不動産特定共同事業では、事業者の参入条件が資本金1000万円へと緩和されたことで、地方の資本力に乏しい中小事業者であっても不動産特定共同事業を運営できるように整備されました。
LIFULL株式会社のこの取り組みは、今後セキュリティトークンを用いた不動産特定共同事業を普及させていくうえで革新的な取り組みであると言えます。
また、アメリカではすでに、ブロックチェーンを基盤技術としたセキュリティトークンを用いた不動産投資の事例もあります。
日本経済新聞「米国で「トークン不動産」 ブロックチェーン活用」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO40057670W9A110C1EE9000/
ニューヨーク・マンハッタンのイーストビレッジ地区に各戸約158平方メートル、全12戸の高級コンドミニアムが、セキュリティトークンでの資金調達によって建設されました。
物件を裏付けとしたセキュリティトークンを投資家が受け取り、通常の不動産投資さながら賃料収入や売却益を得る仕組みです。
審査に時間がかかる銀行の融資に頼らず、投資家から約3000万ドル(約32億円)の資金を集め、物件の完成を成し遂げました。
不動産証券化にセキュリティトークンを用いるメリット
安全な取引が可能に
セキュリティトークンは金融商品取引法の管轄に置かれているため、ルールに沿った安全な取引が可能です。
また、セキュリティトークンを支える技術に、ブロックチェーン(分散型台帳技術)があります。
ブロックチェーン上で取引することでデータの改ざんが不可能となります。
暗号資産を用いた資金調達手段であるICO(Initial Coin Offering)は、投資家保護が甘く、管轄する法制度がないにもかかわらず投機的価値を持つという問題点が指摘されていました。
これらを払拭し、トークンをれっきとした金融商品として扱えるよう、セキュリティトークンは金融商品取引法の規制対象とされました。
日本国内ではまだSTOは浸透したとは言い切れませんが、2020年4月に、セキュリティトークンは「電子記録移転権利」と金融商品取引法において規定され、信頼度の高い金融機関が取り扱えるようになりました。
セキュリティトークンが「電子記録移転権利」と規定されたのは、本来流動性が低いと想定されていたデジタル上の権利が、ブロックチェーン技術によって流動性が高まり、規制が必要となったためです。
不動産商品の流動性の向上
現物不動産をセキュリティトークン化することで、流動性の向上が見込め、365日24時間取引が可能となります。
日本国内ではまだまだ不動産証券化そのものが普及していませんが、欧米をはじめとする海外では不動産のセキュリティトークン化についてはいくつか事例がある他、日本でも大手ディベロッパーのセキュリティトークンプラットフォーム企業への投資や、実証実験の事例もあるため、今後セキュリティトークンを用いた不動産の流動化がより一層進んでいく可能性はあります。
まとめ
この記事では、セキュリティトークンの定義や現状などを踏まえた上で、セキュリティトークンと不動産証券化の関係について解説してきました。
STOはまだまだ日本での知名度も低く、資金調達方法としては普及していません。
しかし、先端技術ならではの安全性や、低コストの実現など様々なメリットもあります。
顧客に安全なサービスを提供するためには投資家保護も重要となってくるため、セキュリティトークンを用いた不動産ファンドの組成も十分に検討の余地には入ります。
不動産クラウドファンディング事業を立ち上げる際にも、他社の事例は参考になるため、是非チェックしてみてください。