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現場から読み解く「不動産金融の世界」 ~第2回 なぜ不動産ST市場は拡大しているのか~


本記事は、「現場から読み解く”不動産金融の世界”」シリーズの一環として、不動産クラウドファンディングや貸付型クラウドファンディング、セキュリティトークン(ST)を取り巻く市場の課題について考察するものです。

業界に長年携わってきたグローシップ・パートナーズ株式会社 代表取締役 松井晴彦氏が、総合コンサルタントとしての実務経験をもとに、事業運営の現場における具体的な論点から、業界全体の変遷や今後のあるべき姿までを幅広く解説します。

著者プロフィール

著者情報
氏名松井晴彦
所属グローシップ・パートナーズ株式会社
役職代表取締役
経歴貸付型クラウドファンディング、不動産クラウドファンディング、デジタル証券(セキュリティトークン)などのオンライン金融ビジネス領域において、10年以上にわたりコンサルティングおよびプラットフォーム提供を行う。ビジネス・法務の両面に精通し、事業者支援と業界発展の双方に携わってきた経験をもとに、客観的な視点から金融市場の健全な成長について提言を行っている。

不動産ST市場の急速な拡大

前回は不動産クラウドファンディング市場について取り上げた。市場拡大の一方で、短期ブリッジ案件の増加や売却益への依存など、本来の「安定した不動産投資」とは異なる商品の増加を指摘した。また、実際に償還遅延や元本毀損事案も発生している。

一方、近年急速に拡大しているのが不動産セキュリティトークン(ST)市場である。
三井住友トラスト基礎研究所によれば、不動産ST市場は取得時鑑定評価額ベースで累計約7,000億円(2026年3月末時点)に達している*。市場関係者の間では、2026年内にも1兆円市場が視野に入るとの見方がある。

なぜ、これほどまでに差がついたのか。その理由はブロックチェーン技術そのものではない。ST市場が評価されている背景には、「不動産を金融商品として成立させるための制度設計」がある。

不動産STの仕組みと二つのスキーム

ST(Security Token)とは、ブロックチェーン技術を利用して権利を電子的に管理する有価証券である。

不動産STの初期案件では、受益証券発行信託が主に採用された。権利の譲渡をデジタルで完結させる際、権利移転に関する第三者対抗要件をどのように具備するかが課題であり、その解決策として受益証券発行信託が有効だったためである。

その後、規制のサンドボックス制度の活用などにより、この課題はGK-TKスキームでも対応可能となった。GK-TKは不動産私募ファンドで最も一般的なスキームであり、多くの不動産ファンド事業者にとって実務上の蓄積がある。近年はST市場においてもGK-TK型案件が登場しており、受益証券発行信託とGK-TKの双方が選択肢となりつつある。

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実際の賃料収入を基礎とする想定利回り

もっとも、投資家にとって重要なのはスキームの違いではない。
STの本質は、金融商品取引法上の有価証券として厳格な規制の下で流通する点にある。

STで示される想定利回りは、実際の賃料収入を基礎として算定される。テナント構成や賃料水準、稼働率などをまとめたレントロールを分析し、運営費用を差し引いたNOI(営業純利益)を算出する。さらに借入金利などを反映し、投資家への分配原資が計算される。

実際の賃貸借契約や収益実績を基礎としている点で、想定利回りの蓋然性を高める仕組みとなっている。

専門家と金融機関による多層的な検証

また、物件については複数の第三者による検証が行われる。

ER(エンジニアリング・レポート)では建物の劣化状況や修繕計画などを調査し、不動産鑑定士は価格の妥当性を評価する。さらに融資を行う金融機関も独自の審査を実施する。

こうしたプロセスを通じて、価格下落リスクや将来の毀損要因の把握が図られている。

情報開示とガバナンスが支える金融商品

加えて、公募STでは有価証券届出書の提出や目論見書の交付が求められる。
物件概要、リスク要因、財務情報、関係当事者、運用方針などが開示され、監査法人による会計監査も行われる。

また、事業者内部では、一線(運用部門)、二線(コンプライアンス・リスク管理部門)、三線(内部監査部門)による牽制体制が整備されており、運用や利益相反管理についても組織的なチェックが行われている。

つまり投資家が購入しているのは、単なる不動産ではない。
専門家による審査、情報開示、監査、ガバナンスによって支えられた金融商品なのである。

不動産クラウドファンディングに求められる方向性

もちろん、不動産クラウドファンディングに同水準のコスト負担を求めることは現実的ではない。

しかし市場の信頼を維持するためには、同じ方向性の情報開示やガバナンスが求められるだろう。

市場規模の差は、単なる販売力の違いではない。
投資家がどちらの商品を「資産形成のための金融商品」と認識しているのか、その違いである。

市場を長期的に成長させる投資家からの信頼

高い利回りをうたう商品は一時的に注目を集めることができる。

しかし長期的に市場を成長させるのは、透明性の高い情報開示適切なガバナンス、そして投資家からの信頼である。
現在の市場規模の差は、その評価の結果として表れているのではないだろうか。

*三井住友トラスト基礎研究所「不動産セキュリティトークンのファンド出口に死角はないか」2026年4月15日

編集部コメント

不動産ST市場は、ここ数年で急速に拡大する一方、金融商品としての情報開示やガバナンス、投資家保護の仕組みについても整備が進んでいます。

不動産クラウドファンディングと不動産STでは制度やコスト構造が異なりますが、透明性の高い情報開示と適切な管理体制を通じて、投資家からの信頼を積み重ねていくことは、両市場に共通する重要な課題といえるでしょう。

当メディアとしても、両市場の発展と投資家保護に向けた取り組みについて、今後も継続的に発信してまいります。

※「住宅新報 6月30日号」 より、当社にて一部原稿を加筆修正し掲載

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