
不動産クラウドファンディングの投資家向けコラムの第1弾であります。今後、投資家にとって有用な情報を発信していきたいと思っていますが、まずは注意喚起の意味も込めて、最近の不動産クラウドファンディングの問題点について説明したいと思います。
最近は、「運用期間6か月」「想定利回り年率15%」「売買契約あり」といったファンドが募集されることがあります。短期で、高利回りで、しかも売買契約まである。一見すると魅力的な商品に見えますよね。
しかし、不動産投資のプロは、このような表面的な条件だけで投資判断をしません。
プロ向け不動産ファンドの収益構造

金融機関などの投資のプロが購入する不動産私募ファンドの収益構造について、図解「プロ向け不動産ファンドの収益構造」をもとに解説します。
その収益とリスクは、大きく4つに分けて考えられます。
第一は、現在の賃貸借契約に基づく賃料収入です。
レントロールから賃料や稼働状況を確認し、管理費、修繕費、固定資産税などを差し引いてNOIを算定します。このNOIを基礎として、投資家に提示する予想配当利回りが計算されます。
つまり、プロ向けファンドの予想利回りは、原則として、すでに存在する賃貸借契約を基礎とした、一定の蓋然性がある収益です。
第二は、将来の賃料上昇です。
契約更新やテナントの入替えによって賃料が上昇する可能性はあります。しかし、それは将来の可能性にすぎないため、アップサイドとして評価されても、現在の賃料を基礎とする予想利回りとは区別されます。
第三は、出口での売却益、すなわちキャピタルゲインです。
プロ投資家も当然、売却益を期待します。しかし、将来の価格は、金利や市況、買い手の資金調達環境などによって変動します。そのため、売却益は期待されるアップサイドであって、予想配当利回りには含めません。株式の予想配当利回りに、将来の株価上昇益を含めないのと同じなのです。
第四は、元本の毀損リスクです。
特に重要なのは、出口で想定より安い価格でしか売却できないリスクです。都心のマンションのように、個人、法人、プロ投資家、REITなど幅広い買い手がいる物件は、相対的に売却リスクが小さい一方、用途が限られた物件や開発途中の土地は、特定の買い手が撤退しただけで売却が難しくなります。
そのため、プロ投資家はERや不動産鑑定評価書を重視します。建物の状態、災害リスク、遵法性などを確認するとともに、適正価格で取得できているかを検証します。
つまり、プロ投資家は、まずリスクを極小化し、蓋然性の高い賃料収入から安定的な配当を得ます。そのうえで、将来の賃料上昇や売却益というアップサイドを狙うのです。
不動産クラファンも投資商品である
不動産クラウドファンディングの法的根拠は、不動産特定共同事業法です。
その電子取引業務ガイドラインには、金融商品取引法と共通する投資家保護の考え方が取り入れられており、損失発生要因や事業者の報酬などを、明瞭かつ正確に表示することが求められています。
ところが実際には、「想定利回り」「運用期間」「売買契約あり」といった表示が、投資家にリスクを理解させるためではなく、安心させるために使われることがあります。
表記だけを見れば、虚偽ではないのかもしれません。しかし、投資家がその言葉から受け取る意味と、実際の取引内容との間に大きな乖離があるケースは少なくありません。
このような場合、正確に説明しているように見せながら、投資家が安心する方向へ誤解を誘導しているのです。
ブリッジファンド自体が悪いわけではない
ブリッジファンド自体が悪いわけではありません。
不動産ファンド業界では、売主が希望する売却時期と、最終的な資金提供者やファンドが投資できる時期が一致しないことがあります。その時間的なずれを埋めるため、一時的に物件を取得・保有するのが、本来のブリッジファンドなのです。
また、不動産特定共同事業法は開発型ファンドも認めているが、本件は開発型ファンドでもありません。
今回問題とするのは、最終取得者も売却価格も確定していない物件を、「短期間で高く売れる」という期待だけで取得するファンドです。これは短期ブリッジファンドではありません。短期転売ファンドなのです。
短期転売ファンドの例

短期転売ファンドの具体例を示します。図解「転売型不動産クラウドファンディングの取引と収益構造」を参考にしてみましょう。
資金のない不動産事業者Aがいました。
Aは、古い民家が建つ土地に目をつけました。知り合いのマンションデベロッパーBから、「更地になれば2億円で買ってもよい」と言われたからです。
民家に住む老夫婦Cは、1億円なら売ってもよいと答えました。1億円で取得し、更地にして2億円で売却できれば、大きな利益が出ます。
しかし、Aには資金がありませんでした。複数の金融機関に融資を申し込みましたが、すべて断られました。Aの会社は財務状態が悪く、また、本当に2億円で売れるかも不確かだったからです。

そこでAは、不動産クラウドファンディング事業者Dに相談しました。
必要となるのは、取得費1億円と、税金、諸費用、解体工事費4,000万円の合計1億4,000万円です。Dは、「想定利回りを年率15%以上にすれば、クラウドファンディングで集められる」と提案しました。
1年間運用すると、投資家への分配金は約2,100万円になります。これにDへの手数料約600万円と広告宣伝費約400万円を加えると、2億円で売却した場合のAの利益は約3,000万円になります。
Aがもっと利益を得たいと相談すると、Dは運用期間を6か月にすることを提案しました。6か月なら分配金は約1,050万円で済み、Aの利益は約4,000万円に増えます。
さらにDはAとの売買契約を用意し、募集ページで「売買契約あり」と大々的に宣伝しました。

高利回りで、運用期間も短く、売買契約もある。ファンドはすぐに完売しました。
Aは土地を取得して民家を解体し、Bに購入を求めました。ところがBから、「建築費が高騰したため、マンション計画は白紙にする」と告げられました。
Aは別の買い手を探したが、売却できませんでした。もともと、それほど条件のよい立地ではなかったのです。
やがて6か月が経過し、ファンドは償還遅延となりました。

この短期転売ファンドの3つの問題
Aとの売買契約は、投資家保護として意味がない
「売買契約あり」と表示されていても、その相手は最終取得者であるBではなく、資金を持たないAなのです。
Aは、Bへの転売や新たな資金調達に成功しなければ、売買代金を支払えません。資金調達を前提としたAとの契約は、投資家の元本を守るものではありません。
これがBとの売買契約であれば、一定の意味はあります。ただし、その場合でも、Bに代金を支払う能力があるのか、その財務状況や信用力、契約の解除条件などを開示する必要があります。
重要なのは、売買契約の有無ではありません。誰との契約であり、相手に履行能力があるかです。
Aとの契約は、Aの転売計画を契約書にしただけであり、投資家保護の観点では意味をなしていないのです。
2.予想配当の原資に蓋然性がない
このファンドの投資家への分配金の原資は、「1億4,000万円を投じた土地が、6か月後に2億円で売れるだろう」というAの見込みだけです。
プロ向けファンドでは、不確実な売却益はアップサイドとして扱い、現在の賃料収入に基づく予想配当利回りとは区別します。
ところが、このファンドでは、プロ投資家なら予想利回りに含めない売却益を、投資家への分配原資としています。
これは安定的な不動産運用ではないのです。買い手も売却価格も確定していない、短期転売への投資だということです。
3.リスクを負う投資家ではなく、リスクを負わないAが売却益を得る
本案件で最も大きな問題は、リスクとリターンの帰属が逆転していることです。
土地建物の取得費、税金、諸費用、解体工事費など、合計1億4,000万円を負担しているのは投資家です。
予定どおり売却できなければ、償還遅延や元本毀損のリスクを負うのも投資家です。
一方、Aは自己資金をまったく出していません。
それにもかかわらず、2億円で売却できた場合、投資家の収益は年率15%、6か月分では約7.5%に固定されます。そして、分配金や各種費用を差し引いた残りの売却益は、Aが取得します。
しかし、本案件の経済実態から考えれば、売却益を得るべきなのは、資金を拠出し、売却できないリスクを負っている投資家なのです。
Aの役割は、物件情報を見つけ、取引を組成したことです。その対価は、通常であれば調達額の2~3%程度のアレンジメントフィー、すなわち500万円程度が一つの目安となるでしょう。
成功報酬を付けるとしても、投資家に元本と所定の配当を返還した後、残った売却益の一部をAに配分するのが通常の考え方です。
しかし、本例では、リスクを負った投資家の収益を年率15%に固定し、自己資金を出していないAが残りの利益をすべて取得します。
Aは投資家の資金で無資金転売に挑戦し、成功利益を自分のものにする一方、失敗リスクを投資家に負わせているのです。
年率15%は、本当に高利回りなのか
年率15%と聞けば、非常に高い利回りに見えます。
しかし、6か月間で投資家が受け取るのは約7.5%です。その一方で、投資家は、賃料収入のない土地について、買い手が見つからず、元本を回収できないリスクを負っています。極めて大きな取引リスクです。
金融機関が融資を断ったAの信用リスクと、本案件そのものの取引リスクが、「短期」「高利回り」「売買契約あり」という魅力的な言葉とともに、個人投資家へ移されたにすぎません。
つまり、投資家が負うリスクと、投資家が得られるリターンの関係は、極めてアンバランスだと言わざるを得ないのです。
短期であることも、ブリッジファンドであることも悪いわけではありません。
問題なのは、最終取得者も売却価格も確定していない短期転売事業を、あたかも出口が確保された安全性の高いブリッジファンドのように見せて販売することです。
制度が投資家保護のために求めている表示が、逆に投資家を安心させ、実態以上に安全だと誤解させるために使われているのです。
その利回りの原資に蓋然性があるのか。売買契約の相手に支払能力があるのか。誰が事業リスクを負い、成功した場合の利益を誰が受け取るのか。本来、その利益を受け取るべきなのは、事業リスクを負っている投資家です。
この3点を確認しなければ、その利回りが本当にリスクに見合っているかを判断することはできません。



