
「暗号資産」とは異なるデジタル金融商品として注目を集めている「ST(セキュリティ・トークン)」。といっても、どちらも金融資産で仕組みが似ている部分もあるので、両者の明確な違いを認識している方はそんなに多くないかもしれません。
ということで、本記事では、そんな暗号資産とSTのそれぞれの特徴や違いについてまとめていこうと思います。
暗号資産とは
2017年、暗号資産「ビットコイン(BTC)」の価格は急上昇し、メディアで取り上げられるなど、世間からの注目を集めていました。2017年の1月1日に1BTC=109,279円だった価格は、同年12月31日に1BTC=1,660,079円の値をつけました※。
わずか1年で約15倍に価値が膨れ上がったビットコインは瞬く間に普及し、投資で1億円以上の資産を築いた人を指す「億り人」というワードが流行するほどの熱狂は記憶にある方も多いのではないでしょうか。
この経緯を踏まえて、暗号資産の概要に触れていきます。
暗号資産とは、インターネット上で「お金」のようにやり取りが可能な財産的価値で、代表的な資産には、先ほどのビットコインのほかにイーサ(ETH)などがあります。
この暗号資産は円やドルのように国や中央銀行が発行・管理する法定通貨とは異なる資産です。特定の国によって通貨として発行されるものではなく、インターネット上で取引・移転できるデジタルな資産として利用されています。
※価格はGMOコインのBID価格を参照。
暗号資産のメリット
1. 利用者同士での直接取引が可能
暗号資産は、銀行等の第三者を介することなく、利用者同士で、直接的に財産的価値(暗号資産)をやり取りすることが可能な仕組みです。
2. ブロックチェーンなどの技術で管理
暗号資産はブロックチェーンなどの技術で取引記録を管理します。この技術では、不正や改ざんが極めて困難な上、システムダウンが起きにくいという特徴のほか、多数の参加者に同一のデータを保持させる仕組みが備わっています。
3. 発行上限が定められているものもある
例えば、ビットコインの場合、発行上限は2100万BTCと定められており、供給量を設定することで希少性が生まれやすかったり、価値の希薄化が起こりにくかったりします。
4. 24時間365日、国境を越えて送金可能
原則として24時間365日インターネット上で国境を越えて送金可能な点も特徴の1つです。
5. 少額に分割可能なものもある
先ほども出てきた、ビットコインを例に挙げると、0.00000001 BTCまで分割可能です。ビットコインの発案者である「サトシ・ナカモト(Satoshi Nakamoto)」にちなみ、この最小単位を「1サトシ」と呼びます。そのため、仮に1BTC=1000万円だったとしても、0.00001BTCだけ購入するなど数百円、数千円から取引可能な場合もあります。
ビットコインの場合は、発行上限や新規発行の方法、取引を承認する仕組みなどがプログラムによって定められており、取引記録は参加者が共同で検証・管理するため、特定の組織が一方的に発行量や記録を変更することは困難です。
円やドルなどの法定通貨は、国や中央銀行、法制度や経済への信用を背景として利用されていますが、ビットコインなどの暗号資産には中央の発行・管理主体が存在しないものもあり、あらかじめ定められたルールに基づいて発行や取引記録の管理が行われています。
暗号資産のリスク
暗号資産は堅牢なシステムの上で取引が行われていますが、リスクも当然存在します。
以下に示すのは主な6つのリスクです。
1. 価格変動リスク
暗号資産は短期間で価格が大きく上下します。株式の場合は企業業績や財務状況、債券の場合は利率や信用力など、ある程度の評価基準があります。一方で、暗号資産はそういった一定の評価材料が必ずしも存在しないため適正価格を判断することが難しく、期待や市場心理によって価格が動きやすい傾向があります。そのため、需要が失われれば、価値はほとんどゼロになる可能性もあります。
2. 秘密鍵の紛失リスク
暗号資産の取引には、「公開鍵暗号方式」という技術が利用されています。利用者は「公開鍵」と「秘密鍵」からなる一組の鍵を持ち、暗号資産を送る際には、自分の秘密鍵を使って取引に電子署名します。ネットワークの参加者は、対応する公開鍵を使って、署名が正しいことや取引内容が改ざんされていないことを確認することが可能です。秘密鍵を紛失しても、シードフレーズ(ウォレットを復元するための「合鍵」)があればウォレット(暗号資産を管理するための「財布」)を復元できますが、その両方を紛失し、バックアップもない場合は原則としてウォレットへのアクセスを復元できず、保有する暗号資産を動かせなくなります。

3. 誤送金のリスク
銀行では送金先を間違った場合「組み戻し」の手続き等で送金を取り消すことができる場合がありますが、暗号資産では間違ったアドレスに送付した場合、管理者へ依頼して簡単に取り消すことはできません。
4. 経営・管理リスク
交換業者の内部管理体制の不備や、顧客から預かった暗号資産・金銭の流出や流用の可能性があります。例えば、取引所が破綻した場合、預けた暗号資産がすぐに返還されるとは限りません。返還までに時間がかかったり、状況によっては全額を取り戻せなかったりする可能性があります。
5. 流動性リスク
暗号資産を売りたいときに、取引量や買い手が少ないがために、暗号資産を希望する価格で売却できないリスクです。具体的には、ビットコインのように取引量の多い暗号資産は比較的売買しやすい一方で、知名度の低い暗号資産は買い手が少ない場合があります。画面上では1枚1,000円と表示されていても、その価格で買いたい人が少なければ保有分をすべて1,000円で売れるとは限りません。
6. 技術・プロジェクトリスク
プログラムの不具合、開発の停止、ネットワークの分裂、利用者の減少などにより、暗号資産の機能や価値が損なわれる可能性があります。例えば、開発が途中で停止する、暗号資産を開発するプロジェクトチームが撤退するなどの問題があげられます。ビットコイン自体に問題がなくても、関連するプロジェクトやサービスの停止・縮小などによって、利用価値や市場価値が低下する可能性があります。
このように、暗号資産はブロックチェーン技術で管理され、自由にやり取りが可能です。
特定の中央管理者が取引記録を一元管理するのではなく、数学的なアルゴリズムやブロックチェーン技術に加え、ネットワークの参加者があらかじめ定められたルールに従って取引が正しいかを検証し、ブロックチェーンに記録するという暗号資産特有の仕組みがあります。こうした技術的な仕組みに加え、その暗号資産に対する利用者の需要や市場からの信頼によってその価値が形成されています。
また、実在する暗号資産交換業者などを装った悪質なフィッシング詐欺なども多発しています。上記6つのリスクのほか、詐欺・犯罪被害のリスクにも注意が必要です。
円やドルなどの法定通貨と比べ、暗号資産特有のリスクを十分に理解し、信頼できる業者を利用したうえで取引を行う必要があります。

STが注目される背景
では、いま注目を集めているSTとは一体何なのでしょうか。
STとは、株式・社債などの資産・権利や不動産を裏付けとする信託受益権を、ブロックチェーンなどの技術を使ってデジタルなトークンとして表現したものです。もっと簡単に言うと、株式や社債、不動産などへの「投資の権利」を、デジタル上で扱えるようにしたものと言えます。
ビットコインなどの暗号資産は「暗号資産そのもの」が取引対象となる一方、STは「株式や不動産などに関する権利」をデジタル化したもの、という違いがあります。
以下にそのほかの特徴を挙げていきます。
不動産ファンドや資産流動化について調べていると、目にすることが多い「信託受益権」。信託財産から生じる利益を受け取る権利であり、不動産証券化を支える代表的な仕組みの一つです。 信託受益権では、不動産の名義を持つ人と、賃料や売却[…]
STのメリット
1. 小口化しやすい
不動産など、従来はまとまった資金が必要だった資産でも、権利を細かく分けて販売することができるため、少額からの投資が可能です。
2. ブロックチェーンによる発行・管理
ブロックチェーン技術による発行・管理体制のため、誰がどれだけ保有しているかなどを電子的に記録できるため、発行後の管理や事務を効率化できる可能性があります。
3. 金融商品として法規制の対象になる
暗号資産のような「新しいデジタル資産」というより、既存の有価証券の仕組みをデジタル化する発想なので、投資家保護のルールの下で商品を組成できる点も普及を後押ししています。
また、日本ではSTに対応した金商法上の制度整備も続いています。
4. 不動産、社債、株式など、様々な資産を対象にできる
STは、不動産だけでなく、社債や株式など様々な資産や権利をデジタル化して発行できます。そのため、対象となる資産や収益の仕組みに応じて、多様な金融商品を設計できる点が特徴です。
5. 二次流通市場で売買できる商品もある
STは、通常の上場株式のように東京証券取引所の株式市場で自由に売買するものではありませんが、ST専用の二次流通市場や取扱証券会社を通じて譲渡・売買できる商品もあります。
このように、STは暗号資産のようにブロックチェーンなどのデジタル技術を活用しながら、有価証券として既存の投資家保護の枠組みに乗せられるという意味で、新しい金融商品と言えます。
STのリスク
続いて、STのリスクに関して説明します。STに関しては主に4つリスクがあげられます。
1.価格変動・元本割れのリスク
STは預金ではなく、あくまで投資商品です。
裏付けとなる不動産や企業、事業などの価値、収益が悪化すれば、価格が下落したり、期待していた配当や償還を受けられなかったりする可能性があります。
2.流動性のリスク
デジタル化したからと言っても、いつでも希望する価格で売却できるとは限りません。
株式市場とは異なり、STの流通市場はまだ発展途上で、商品によっては買い手が少なく、売却したいときに売却できない可能性があります。
3.システム・サイバーセキュリティのリスク
ブロックチェーンなどのシステムを利用するため、システム障害や不正アクセス、秘密鍵の漏えい・盗難などが問題になる可能性があります。
4.発行者・裏付け資産に関するリスク
STそのものが安全でも、発行企業が経営破綻したり、裏付けとなる不動産などの価値が下落したりすれば、投資家が損失を被る可能性があります。
つまり「ブロックチェーンに記録されている=投資対象の価値が保証されている」わけではありません。
このように、STには価格変動や流動性、裏付け資産の価値下落、システム障害など、さまざまなリスクがあります。STはデジタル技術を活用した新しい投資の形として注目されていますが、元本や収益が保証されているわけではありません。
投資する際は、商品の仕組みや裏付けとなる資産、想定されるリスクを十分に確認したうえで判断することが大切です。

暗号資産とSTの違い
暗号資産とSTは、いずれもブロックチェーンなどの技術を活用して電子的に記録・移転できるという共通点があります。
しかしながら、両者は全く異なる性質を持ちます。次は相違点を確認していきましょう。
| 暗号資産 | ST(セキュリティ・トークン) | |
| 法的な性格 | デジタル資産(有価証券とは異なる) | 有価証券 |
| 根拠となる法律 | 資金決済法 ↓ 金融商品取引法 (2026年7月15日参議院本会議で可決・成立) | 金融商品取引法 |
| 主な用途 | 決済、送金、ネットワーク利用などさまざま | 企業やファンドなどの資金調達、投資商品の提供 |
| 取引される場所 | 暗号資産交換業者の取引所など | 証券会社などを通じた販売・ST向け流通市場など |
| 保有者の有価証券上の権利 | なし※ (保有しただけで配当・利息などの権利が生じるとは限らない) | あり (配当・利息・償還金などを受け取る権利を持つ商品がある) |
| 発行主体 | ないものもある (例:ビットコイン) | あり (企業、金融機関、ファンドなど) |
上の表に示しているのが主な違いです。
なお、暗号資産に関しては、次章で補足して説明します。
発行目的、取引場所、保有者の権利など、それぞれ比較すると違いが見えてきます。特に保有者の権利、発行主体では、STの特徴が見えてくるのではないでしょうか。
暗号資産は、現物取引は主に資金決済法で規制されていましたが、暗号資産デリバティブ取引にはすでに金商法が適用されています。
また、風説の流布、偽計、相場操縦などの不公正取引規制はすでに設けられており、今回新設される中心的な規制の一つがインサイダー取引規制です。
※株主権、利息、償還請求権などの有価証券上の権利は通常ない。ただし、設計によって利用権やガバナンス機能などを持つ場合がある
暗号資産の法改正
前章でも触れたとおり、暗号資産は資金決済法を根拠としていました。
しかしながら、今年、2026年7月15日に、金融商品取引法(以下、金商法)の規制対象として位置付ける法案が参議院本会議で可決・成立しました。無登録業に対する罰則の引き上げを含め、一部は8月12日に施行されましたが、主要部分は8月時点でまだ施行されていません※。
※本記事の法令情報は2026年8月19日時点
暗号資産はこれまで決済・交換に利用される財産的価値として、主に資金決済法の枠組みで規制され、現物取引などの主要な部分は金商法の適用外として位置付けられていました。
そうしたなかでも、投資目的での売買や保有が拡大していき、ある種の「投資商品」としての普及に対して情報開示やインサイダー取引への対応など、投資対象としての性格に応じた規制をさらに整備する必要性が高まりました。この状態を改めようと、制度の見直しが進められ、暗号資産取引に関する規制を資金決済法から金商法へ移す改正法案が国会に提出されました。
この法改正の意味としては、暗号資産を直ちに有価証券と同列に置くための見直しということではありません。
暗号資産は投資対象として広く取引されるようになった実態を踏まえ、情報開示や不公正取引規制などを整備し、市場の公正性・透明性と投資家保護を高めるための制度改正といえます。
まとめ
これまで述べてきたように、暗号資産とSTは、デジタル上で取引できるという点では類似していますが、暗号資産は「デジタル資産そのもの」を保有するもの、STは「投資に関する権利をデジタル化し保有するもの」という点に大きな違いがあります。法制度上も、STは有価証券として金融商品取引法の規制対象となっています。
一方、暗号資産は有価証券とは性質が異なるものとして扱われてきました。
2026年の法改正では暗号資産も金融商品取引法の規制対象として位置づけられることになりましたが、暗号資産そのものがSTと同じ「有価証券」になるわけではありません。金融庁も、STは「有価証券をトークン化したもの」であるのに対し、暗号資産は基本的に法的権利や収益分配を表すものではないとして、両者の性質を明確に区別しています。
両者の違いやリスクを十分に理解し、目的に沿って利用していくことが重要です。



