不動産クラウドファンディングは、少額から不動産投資を始められる手軽さや、専門的な知識や煩雑な手続きを必要とせずに資産運用ができるという点で、近年ますます注目を集めています。従来の不動産投資に比べて敷居が低く、投資初心者でもチャレンジしやすいことから、若年層や副業としての運用を検討している方々にも広がりを見せています。
しかしながら、どんなに魅力的に見える投資商品であっても、メリットばかりではありません。不動産クラウドファンディングにも当然ながらリスクや注意点が存在しており、そうした「デメリット」を事前に把握しておくことは、資産を守る上で非常に重要です。トラブルの回避や損失リスクの最小化にもつながるため、投資を始める前に冷静に理解しておくべきポイントといえるでしょう。
本記事では、不動産クラウドファンディングの代表的なデメリットについて解説し、それぞれに対する対処法や心構えについてもご紹介していきます。
不動産クラウドファンディングとは?基本概要をおさらい
不動産クラウドファンディングの仕組み
不動産クラウドファンディングは、まず不動産の売買・運用を専門とする企業(以下、「事業者」と呼称)が、インターネットを介して不特定多数の人々から出資金を集め、それを元手に投資対象となる物件を取得(購入)します。そして、対象物件は、一定の運用期間(賃貸物件として第三者へ貸し出す、また売却先を探す期間)を経て、賃料収入や売却益を稼いでいきます。
最終的な運用終了後、出資金を返還しつつ、賃料収入や売却益の一部を出資者に金銭的リターンとして分配するまでが不動産クラウドファンディングの一連の流れとなります。
これにより、一般の個人投資家でも高額な資金を必要とせず、不動産投資が可能になります。また事業者が物件管理や運用を代行するため、投資家は管理の手間を省けるというメリットがあります。
インターネット上で少額から取り組める不動産投資として注目を集める「不動産クラウドファンディング」いまさら聞けない基本的な仕組みやメリット、実際に取り組む上で見極めなければならないポイントまで詳しく解説してまいります。不動[…]
不動産クラウドファンディングの市場動向
※2025年5月時点 自社調べ
近年、不動産クラウドファンディング市場は急速な成長を遂げており、今後もさらなる拡大が予測されています。背景には、低金利時代が長引く中で「預金や債券では資産が増えにくい」と感じる投資家のニーズがあり、少額から始められて不動産に分散投資ができる新しい投資手法として、多くの注目を集めています。
実際、上のグラフに示されているように、2018年から2025年にかけて不動産特定共同事業におけるクラウドファンディングの新規案件数と募集金額合計は右肩上がりで増加しています。特に2022年以降は投資家層の拡大や利便性の高いオンラインプラットフォームの登場により、年間ファンド数が大幅に増加し、それに伴って募集金額も急増。2025年には累計の市場規模が5000億円を超える見通しとされており、今や成長産業の一角を担う存在となっています。
また、参入する事業者の数も年々増えており、大手不動産会社だけでなくスタートアップ企業も市場に参入。利回りの高さやリスク分散のしやすさ、運用の手軽さといった特徴が投資家の心をつかみ、投資の選択肢として定着しつつあります。
このように、不動産クラウドファンディング市場は今後ますます拡大していくと見られており、投資初心者から経験者まで幅広い層にとって魅力的な投資先となっていることがわかります。
不動産クラウドファンディングの種類
不動産クラウドファンディングには、大きく分けて以下の種類があります。それぞれ収益の得られ方やリスクの大きさが異なるため、自分の投資スタイルや目的に合ったタイプを選ぶことが大切です。ここでは代表的な4種類について、初心者にもわかりやすく解説します。
最初は「インカム型」や「ハイブリッド型」など、分配が安定しやすいタイプから始めるのがおすすめです。どのタイプも一長一短があるので、投資前にそれぞれの仕組みやリスクをしっかり理解しておきましょう。
- インカム型:賃貸収入を分配金として受け取るタイプ
- キャピタル型:物件を売却して利益を得るタイプ
- ハイブリッド型:賃貸収入と売却益の両方を分配
- 開発型:新規プロジェクトに投資し、完成後の売却益を狙う
インカム型
物件を第三者に貸し出すことで得られる家賃収入を分配金として受け取るタイプです。収益は比較的安定しており、四半期もしくは半期ごとに分配があることが多いため、コツコツ収益を得たい人や、リスクを抑えたい初心者に向いています。一方で、大きな利益は見込みにくい点がデメリットです。
キャピタル型
物件を一定期間保有した後に売却し、売却益(キャピタルゲイン)を分配するタイプです。市場価格が上がれば大きなリターンが狙える反面、分配は売却時まで待つ必要があり、空室や価格変動などのリスクも高めです。利益重視で中〜上級者向けの傾向があります。
ハイブリッド型
賃貸収入と売却益の両方を組み合わせたタイプで、インカムゲインとキャピタルゲインの両取りが狙えます。安定性と利益のバランスがよく、初心者にも人気の高いタイプです。ただし、運用方法が複雑になるため、事業者の実績や運用方針をしっかり確認することが大切です。
開発型
更地や老朽化した物件などに投資し、新たに建物を開発して売却益を狙う高リスク・高リターン型です。プロジェクトの進捗や不動産市況に大きく左右されるため、上級者向けで慎重な見極めが必要です。
不動産クラウドファンディングの主なデメリット4選
冒頭に記載した通り、不動産クラウドファンディング少額投資が可能で、運用の手間が省ける等のメリットがある一方で、デメリットもあります。デメリットを把握しておくことで万が一のトラブル対策ができるため、確認しておきましょう。
デメリット | 主な原因・背景 | リスク軽減の対策方法 | 具体例・サービス |
---|---|---|---|
元本割れのリスク | 地価下落、空室、運営会社の破綻など | 優先劣後システムの活用、信頼できる事業者の選定 | iRDやちょっこ不動産など優先劣後比率が高い案件、JointoαやCREALなど上場企業が運営する案件 |
流動性の低さ | 中途解約が原則不可で、資金がロックされる | 余裕資金で投資、分散投資で柔軟性を持たせる | COZUCHIなど途中解約が可能な案件 |
レバレッジが使えない | 融資による拡大投資ができず、自己資金のみ | レバレッジ可能サービスを検討 | TREC FUNDING(SPC経由でローン活用) |
税制優遇がない | 雑所得として総合課税され、税率が上がる | 節税制度の併用、税シミュレーション、普通徴収 | 住民税バレ回避、iDeCo・ふるさと納税活用 |
1. 元本割れのリスク
不動産クラウドファンディングにおける最大の懸念点の一つが「元本割れのリスク」です。
元本割れとは、投資額よりも少ない金額が返ってくる状態を指し、投資家が損失を被る可能性を示します。特に、空室リスクや自然災害による建物損壊、地域の地価変動が影響する可能性があります。これらのリスクを軽減するためには、物件の立地や築年数、耐震性などを確認し、信頼性の高い事業者を選ぶことが重要です。
元本割れが発生する要因
不動産価値の下落
不動産価格が運用期間中に下落すると、売却益が減少し、元本を回収できないリスクがあります。特に、地方都市や人口減少エリアでは、地価が大きく下落するリスクが高まります。空室リスク
賃貸型ファンドでは、空室が続くことで家賃収入が減少し、分配金が想定より少なくなる場合があります。特に、入居率が低い物件や立地が悪いエリアでは注意が必要です。運営会社の破綻
クラウドファンディングを運営する会社が倒産した場合、投資家への分配がストップし、元本が戻らないリスクもあります。
投資家の口コミと見解
SNSや口コミサイトを見ると、「元本保証がない点が不安」「信頼性が不十分だと感じる」といった意見が多く見られます。特に初心者投資家にとっては、リスク管理の見える化が大事であり、信頼性のある事業者を選ぶ基準が求められています。
元本割れリスクを軽減するための対策
優先劣後システムを利用する
劣後出資割合が高い案件を選ぶことで、事業者が先にリスクを負うため、投資家の元本保護率が高まります。物件選定に注意する
地価が安定している都市部の物件や、築浅、複数の入居者がいる集合住宅など、リスク分散が可能な案件を選ぶことがポイントです。運営会社の信頼性をチェック
上場企業が運営しているサービスや、運用実績が豊富な事業者を選ぶことで、リスク低減が図れます。
具体例:iRD(イルド)
元本割れリスクを抑えるには、優先劣後システム制度の活用が効果的です。この仕組みでは、投資家(優先出資者)よりも先に、運営会社(劣後出資者)が損失を負担するため、一定の元本保護が期待できます。特にiRDは、優先劣後出資比率が平均50%と高く、リスク軽減に配慮された設計が特徴です。 少額から始められるため、投資初心者でもチャレンジしやすい不動産クラウドファンディングですが、年々事業者も増えており、どのサイトで始めればいいのか迷っている方も多いのではないでしょうか。今回はiRD(イルド)について、強みや注意点[…]
具体例:Jointoα(ジョイント アルファ)
また、上記以外にも上場企業が運営するサービスを選ぶのも有効です。上場企業は情報開示の義務が厳しく、経営の健全性が高いため、倒産リスクを比較的抑えられます。Jointoαは上場企業が運営し、運営実績や財務情報も公開されており、安心して利用しやすいプラットフォームです。 少額から始められるため、投資初心者でもチャレンジしやすい不動産クラウドファンディングですが、年々事業者も増えており、どのサイトで始めればいいのか迷っている方も多いのではないでしょうか。今回は「Jointo α(ジョイントアルファ)」につ[…]
2. 流動性の低さ(中途解約ができない)
不動産クラウドファンディングは、あらかじめ運用期間が決まっており、原則として途中解約ができません。投資後は満期まで資金がロックされるため、急な出費やライフイベントに柔軟に対応しにくいという弱点があります。株式や預金のように自由に換金できない点は、大きなデメリットのひとつです。
投資家の声:急な資金需要に困った事例
「想定していなかった急な出費が発生し、資金がロックされてしまったため、他の資産を売却する羽目になりました。」(20代投資家)
このように、突然の出費が必要になった場合、クラウドファンディングに預けた資金が使えず、他の資産を取り崩さなければならないケースもあります。流動性リスクを理解したうえで、無理のない範囲での資金配分が重要です。
流動性リスクを軽減するための対策
1〜2年使う予定のない“余剰資金”のみで投資する
急な出費に備え、生活費とは切り離した余裕資金を使うのが安心です。複数ファンドへの分散で、資金回収タイミングを分ける
異なる運用期間の案件を選べば、資金が一度にロックされず柔軟に回収できます。少額から始められるサービスを活用
1万円から投資できるサービスなら柔軟性が高く、資金拘束が少なく分散投資もしやすくなります。
例外:COZUCHI(コズチ)
「COZUCHI」は1万円から投資可能なサービスで、複数ファンドへの少額分散がしやすいのが特長です。異なるエリアや運営会社の案件を組み合わせて投資することで、資金の流動性をある程度確保しながらリスクヘッジが可能になります。 少額から始められるため、投資初心者でもチャレンジしやすい不動産クラウドファンディングですが、年々事業者も増えており、どのサイトで始めればいいのか迷っている方も多いのではないでしょうか。今回はCOZUCHI(コヅチ)について、強み[…]
3. レバレッジ効果が得られない
クラウドファンディングでは金融機関の融資を活用できず、自己資金のみでの投資になります。そのため、不動産の直接購入のように「少ない元手で大きな利益を狙う」ことは難しい特徴があります。
株式投資や不動産購入とは異なり、クラウドファンディングでは融資を利用したレバレッジ投資ができません。自己資金のみでの投資となるため、高額なリターンを狙いにくいのです。
レバレッジの仕組みと他の投資方法との比較
これに対して、不動産の直接購入による投資では、金融機関からの融資を利用することで、少ない自己資金でも大きな金額の物件を購入できます。たとえば、1,000万円の物件を自己資金200万円+借入800万円で取得し、家賃収入や売却益によって元手以上のリターンを狙うことも可能です。これが「レバレッジ(てこの原理)」による利益の拡大です。
一方で、レバレッジには当然ながらリスクも伴います。空室が続いたり、物件価格が下落したりすれば、借入金の返済負担だけが残ることもあるため、投資経験や経済状況に応じた慎重な判断が必要です。その点、不動産クラウドファンディングは自己資金のみで完結するため、借金を背負うリスクがなく、初心者にとっては比較的安心して始めやすい投資方法といえるでしょう。リターンは控えめになる可能性がありますが、運用の手間が少なく、リスクを抑えて不動産に関われるのは大きな魅力です。
さらに、以下の記事では「不動産クラウドファンディングって実際どうなの?」というよくある疑問について詳しく解説しているので、他の投資方法との違いやリアルな評判を知りたい方におすすめです。
不動産投資といえば、家賃収入による毎月の不労所得や土地の値上がりによる数千万~数億円の売却益など一攫千金の儲け話としてイメージされる一方で、多額の初期費用が必要だったり、管理が手間であるといったマイナス面や悪質な業者による勧誘などの[…]
例外:TREC FUNDING(トレック ファンディング)
一部のクラウドファンディングサービスでは、レバレッジを活用できる仕組みを導入しています。特にTREC FUNDINGは、不動産特定共同事業法の第3号・第4号の許可を取得し、特別目的会社(SPC)を介在させることで金融機関からのローンを活用しています。
これにより、自己資金に対してより大きな投資が可能となり、高い利回りを実現するケースがあります。また、倒産隔離スキームを導入しているため、運営会社が倒産しても投資資金が保護される点も特徴です。しかし、レバレッジを効かせることでリターンが増加する一方で、リスクも高まる可能性があるため、慎重な判断が求められます。
少額から始められるため、投資初心者でもチャレンジしやすい不動産クラウドファンディングですが、年々事業者も増えており、どのサイトで始めればいいのか迷っている方も多いのではないでしょうか。今回は「TREC FUNDING」について、[…]
4. 税制面での優遇措置がない
分配金は「雑所得」として総合課税されるため、給与所得と合算されて税率が上がることがあります。これは株式投資や投資信託で得られる配当金・譲渡益とは異なり、税制上の優遇措置がほとんどないという点で注意が必要です。特に副業や本業の収入が高い方は、住民税や社会保険料にも影響する可能性があります。
特に、給与所得のあるサラリーマンや副業をしている人は、他の所得と合算される「総合課税」が適用されるため、所得が増えるほど税率も高くなるという仕組みになっています。場合によっては課税所得が増えた結果、住民税や社会保険料まで引き上げられてしまうケースもあります。
図:年収と雑所得による税率のイメージ
以下のグラフは、給与所得に加えて不動産クラウドファンディングの分配金(雑所得)が合算された場合に、所得税の税率がどのように変化するかを示したイメージです。
所得が高くなるほど税率の上がり幅も大きくなるため、分配金によって実質の手取りが減ってしまう可能性があります。税制優遇のあるNISAやiDeCoとは異なり、不動産クラウドファンディングでは節税効果が見込めない点には注意が必要です。
投資家の声:税負担が想定以上
「副業として投資を始めたのですが、所得が増えたことで住民税も上がり、予想以上に手取りが減りました。」(30代会社員)
このように、せっかく投資で利益が出ても、手元に残る金額が思ったより少なかったと感じる方は少なくありません。特に副業収入との合算などで「住民税が上がった」という声も多く、実質的な手取りベースでのシミュレーションが重要になります。
リスクを軽減するための対策
事前に税負担をシミュレーションしておく
クラウドファンディングの分配金がどれくらいの雑所得になるかを計算し、確定申告時の影響を把握しておきましょう。ふるさと納税やiDeCoなど他の節税制度と併用
クラウドファンディング自体に節税効果はありませんが、全体の税金対策として他の制度を活用することでカバーすることが可能です。住民税の申告区分に注意
「普通徴収(自分で納付)」を選択すれば、副業や雑所得の内容が勤務先に伝わりにくくなり、会社バレのリスクも軽減できます。
まとめ デメリットを理解し、リスクを抑えた投資を目指そう
不動産クラウドファンディングは、手軽に始められる新しい投資手法として魅力がある一方で、流動性の低さや元本割れリスク、税制面の注意点など、見落としがちなデメリットも存在します。だからこそ、メリットだけでなくリスク面にも目を向け、正しい知識と対策を持って向き合うことが大切です。信頼できる事業者の選定や、余剰資金による分散投資を徹底することで、万が一の事態にも備えられる安心感が生まれます。安定した資産形成を目指すためにも、「理解したうえで選ぶ」投資判断を意識していきましょう。