少額投資、高利回りが特徴である、ソーシャルレンディングという手法が注目されていますが、
そのソーシャルレンディングが危ないというのは果たして本当なのでしょうか?
過去の事例に目を向けると、ソーシャルレンディングが危ないと言われている所以や、これからの投資に生かすことのできる教訓を得ることができます。
ソーシャルレンディングにおける危険性を理解することは、投資での失敗を未然に防ぐことにもつながります。
この記事を見れば、事業者の失敗事例や対策が一目でわかります。
ソーシャルレンディングに潜む危険を予め知り、投資の戦略を練りましょう。
ソーシャルレンディングに感じる危険は事業者の過去の失敗が醸している

ソーシャルレンディングが危ないと言われる理由は、過去のソーシャルレンディング事業者の行政処分や返済遅延が取り沙汰されるからです。
特に投資初心者は失敗事例や事件を調べがちで、それを目の当たりにすると投資をするときに腰が引けてしまうこともあるでしょう。
しかし、それを教訓とすることができれば、投資家としての目を養うことにもつながりますし、賢い判断もできるようになります。
ソーシャルレンディング事業者の行政処分歴

では、過去にはどのような行政処分の事例があるのでしょうか。
maneoマーケット
maneoマーケットは日本初のソーシャルレンディング会社で、2020年3月時点での累計募集金額の実績値は国内で最大規模でした。
しかし、虚偽の表示で資金を募り、資金管理にも問題があった結果、損害が発生したとして提訴されました。
提訴されたのはmaneo社と、同社を通じて投資家から資金を集めた「グリーンインフラレンディング」(東京・港)やそのグループ会社、グリーン社などの代表取締役です。
グリーン社はmaneo社を通じて、国内での太陽光発電や海外での水力発電など自然エネルギー分野への融資名目で出資者を募りましたが、実際にはグリーン社は集めた資金をグループ会社に貸し付け、本来の目的と異なる事業などに使っていました。
グループ会社は自己資金と投資家から集めた資金を同じ口座で管理していた。出資者への利息配当や償還が滞っています。
maneoマーケットは管理体制に不備があるとの指摘を受け、2018年7月に金融庁から行政処分を受けることとなりました。
みんなのクレジット
みんなのクレジットは、2017年2月に行政処分を受けました。
処分内容は大きく分けて以下の2つです。
(1)金融商品取引契約の締結又は勧誘において誤解を生じさせる表示をする行為
・貸付先について誤解を生じさせる表示をした
貸付先の審査の段階から、完全に親会社への貸付けを予定していたにもかかわらず、ウェブサイトにおいて、ファンドが複数の不動産事業会社等に対し貸付けを予定しているかのような表示をし、貸倒れリスクが分散されているかのような誤解を与える表示を行った上で、顧客に対し、出資持分の取得勧誘を行っていた。
また、親会社はファンドから借り入れた資金の返済について、他の償還期限が到来していないファンドの資金を充当していた。・担保について誤解を生じさせる表示をした
取得勧誘を行ったファンドについて、原則として貸付先から不動産若しくは有価証券の担保を受け入れ、返済が滞った場合に貸付金の回収を図る旨を表示しているが、貸付先のほとんどが親会社であり、設定された担保の大半が親会社の発行する未公開株式となっており、中には担保のない貸付けも存在していた。
貸付けの中には担保のないものが存在しているにもかかわらず、ファンドの貸付債権が保全されているかのような誤解を与える表示を行った上で、顧客に対し、ファンドの出資持分の取得勧誘を行っていた。(2)業務運営における投資家保護に関する問題
・ファンドの償還資金に他のファンドの出資金が充当されている
取得勧誘を行ったファンドのうち、既に償還された17本のファンドの償還金の原資を検証したところ、10本について、他の償還期限が到来していないファンドの資金が償還金に充当されている状況が認められた。・キャンペーンにファンド出資金が充当されている
ファンドの募集を開始して以降、キャッシュバックキャンペーンと称して、顧客に現金を還元しているが、当該現金還元の原資を検証したところ、親会社へ貸し付けたファンド出資金が当社に還流して充当されていた。・代表者の白石氏がファンド出資金を自身の借入れ返済等に使用している
白石氏は、親会社に貸し付けたファンド出資金について、親会社の社員に指示を出し、自身の預金口座及び自身の債権者に送金させていた。・親会社グループの増資にファンド出資金が充当されている
親会社グループの一部の会社は、親会社グループの他の一部の会社を引受人とする増資を行っている。増資については、ファンド出資金が甲グループ内で貸付け、借入れが繰り返された後に充当されていた。・ファンドからの借入れを返済することが困難
ファンド出資金の最大の貸付先である親会社が、毎月多額の損失を出し続け、累積赤字を増加させており、債務超過の状態にあった。親会社は、増資により債務超過状態を解消しているが、ファンドから毎月多額の資金を借り入れていたことから、短期借入金が流動資産を大きく上回る状況となった。出典:関東財務局「株式会社みんなのクレジットに対する行政処分について」
ラッキーバンク
ラッキーバンクは2018年3月に行政処分を受けました。
以下が処分の理由です。
・貸付先のほとんどが副社長である田中氏の親族が経営する不動産会社
・売却契約をしていないファンドの売り上げ物件を計上し、純利益・純資産を水増し
・担保不動産の鑑定評価が未完了
・不動産会社の返済困難を黙認し、それを貸付先とするファンド募集を継続
ラッキーバンクは不動産の案件に担保を設定しており、貸し倒れ時の資産保全性の高いソーシャルレンディング会社であると考えられていました。
しかし、実際の担保価値は低く、貸し倒れが発生しても投資家には募集資金の3割しか返済できませんでした。
エーアイトラスト
エーアイトラストは平成30年12月及び平成31年3月に行政処分を受けました。
平成30年12月に処分を受けたのは、ファンドの取得勧誘に際して、以下の2つの表示行為をしたためです。
- 原発事故被災地の水資源の安全向上を目的として実施される除染事業に関するファンドの募集を行っているかのように見せかけていたが、除染事業は存在せず、貸付けは当初から行われていなかった。
- 動産ファンドの取得勧誘に際し、募集ページにおいて、出資金の貸付先が関与する事業や返済原資等に関し、大手企業との業務提携を結んでおり、これにより得られた収益を原資として返済が行われるかのような表示をしていたが、実際には業務提携等もそれに関連した事業による収益が返済原資となることなどを前提とした貸付けが存在していない。
また、平成31年3月に処分を受けたのは以下が原因です。
- 高速道路事業の工事を受注したという名目で投資家から総額約15億7千万円の出資を受けたにもかかわらず、実際には受注しておらず、虚偽のファンドだった。
- 公共事業に係るコンサルティング業務を貸付対象事業とするファンドを募集したが、これは架空であり、事業の実施を前提とした資金用途のための貸付は行われていなかった。
エーアイトラストは上記の問題により異例となる二度の行政処分を受け、に追い込まれました。
2020年5月現在、エーアイトラストは業務停止命令を受けて、金融商品取引の免許を剥奪され、営業停止状態に追い込まれています。
クラウドバンク
クラウドバンクは、2015年7月と2017年6月の2度、行政処分を受けています。
2015年7月に行政処分が下された理由は分別管理ができていなかったからです。
分別管理とは投資家からの預かり資産と自己(自社)の資産とを明確に区分して管理することで、
万が一企業が破綻した場合でも、投資家の資産が保護される仕組みです。
その分別管理に必要となる社内規程や業務システムを整備するなどの内部管理態勢を構築しないまま、第一種業務及び第二種業務を運営していたため、3カ月の業務停止命令を受けました。
2017年6月に行政処分が下されたのは、 著しく事実に相違する表示又は著しく人を誤認させるような表示のある広告を表示したためです。
ウェブ広告で「SPC(特別目的会社)のメザニンローン(返済の優先順位が低いローン)として6億円の融資を実行します」と表示し、匿名組合の融資先は不動産を実際に取得するSPC融資の形態はメザニンローンであることを説明していましたが、実際には、匿名組合の融資先は不動産開発事業に投資を行う事業会社で、その会社は匿名組合から融資を受けた金銭の中から、不動産取得SPCにメザニンローンとして4億6000万円を融資するとともに、不動産取得SPCを営業者とする匿名組合に対して、1億7950万円を出資していました。
また、不動産開発事業のリスク説明として、「プロジェクトの継続が困難になった場合」と題した図を掲載し、匿名組合の融資したメザニンローンは、あたかも匿名組合とは別の出資者のエクイティによって毀損しないと表示をしていましたが、匿名組合出資を除くと、不動産取得SPCのエクイティに相当するものは55万円しかない状況でした。
しかし、クラウドバンクは投資家が損失を被るような業務内容の不備や、自社の利益のために詐欺行為をしなかったことため、営業停止までには至りませんでした。
法制度とも合わせて、今後事業者がどのような対応をしていくのか各種サイトを参照の上、しっかりと理解していかなければなりません。
SBIソーシャルレンディング
ソーシャルレンディング最大手であるSBIソーシャルレンディングにも、2021年5月に、金融庁から業務停止命令が下されました。
貸付先企業が資金を不正流用したことに対し、同社は金商法において定められている資金使途の確認義務を怠っていたことが原因です。
2月に第三者委員会による調査が開始され、3月からすべての案件で新規の貸し付けを停止し、4月には投資家に対し全額を同社が補填することを発表しました。
その後、4月28日には第三者委員会の報告がまとまったが、金融庁はSBIソーシャルレンディングに対して業務停止命令を出す方針を固めたと各社が報道、これらを受けてSBI HDはソーシャルレンディング事業からの撤退を決めました。
今後は新規ファンドおよび新規投資家の登録を全面的に停止し、既存ファンドの管理回収を行っていく予定です。
同社の再起はほぼ不可能と言っていいです。
金融庁によるソーシャルレンディング事業の整備

上記の通り、ソーシャルレンディング事業者は行政処分を受け、いくつかのサービスは行政処分を受けています。
しかし、悪がはびこれば正義の鉄槌が下るのが世の常です。
金融庁は、虚偽の表示や誤解を与える表示を行っていたり、投資家保護上の問題が認められた一部の業者を登録抹消、あるいは行政処分としました。
また、金融庁は金融商品取引業者に対して、顧客の判断に影響を及ぼすこととなる事項を記載した書面をあらかじめ顧客に対し交付させた他、それまで秘匿とされいた貸付先の情報開示も可能としました。
ソーシャルレンディングに関してはまだまだ整備が必要な段階にあります。今後の動向は細かくチェックしていきましょう。
投資家が気をつけなければならないこと
ここまで読んで「ソーシャルレンディングはやはり危ないんじゃないか…。」と怖気づく人はどうか早まらないでください。
以下のポイントを押さえれば、ソーシャルレンディングに健全に取り組むことができます。
事業者の実績や信頼性を見極める
ソーシャルレンディングをこれから始めようと思う人はまず事業者の実績や信頼性を見極めましょう。
実績は事業者のサイトを見れば一目でわかるうえに、どのような案件に強みを持つ事業者なのかを知るための貴重な情報でもあります。
また、信頼性に関しては過去の行政処分の履歴や創設からどのくらい経つサービスなのかはインターネットでも記事になっていますし、比較サイトもあるのでチェックしてみてください。
必ず役に立つはずです。
1つのファンドに大金をつぎ込まない
投資全般に言えることですが、分散投資を心掛けましょう。
1つのファンドに軍資金をすべてつぎ込んでしまうと、大損を被る可能性がグッと高まります。
少額から始められることがソーシャルレンディングの特徴でもあるので、ポートフォリオの形成は計画的に行いましょう。
過去の貸し倒れ率の低さ≠未来の貸し倒れ率の低さ
貸し倒れ率0%を誇る業者もあり、サービスの特徴にそれを挙げる事業者もいますが、それはあなたの投資が100%成功することを示唆するものではありません。
投資とはリスクを背負うことです。リスクは必ず付きまといます。元本毀損など万が一のことが起こった場合でも、自分で責任を負う覚悟を持ちましょう。
まとめ
今回は、なぜソーシャルレンディングは危ないと言われるのかを解説してきました。
問題となっているのは、事業者が集めた資金を適切な目的で使っていないことであったり、投資家に対して虚偽の情報を開示していたことです。
しかし、日本国内におけるソーシャルレンディング市場はまだまだ黎明期です。
事業というものは失敗を乗り越え、淘汰を繰り返しながら徐々に発展していくものです。
この記事で列挙した黒歴史もありますが、ソーシャルレンディングのサービスは現在続々と増えてきていることに加えて貸付先の詳しい情報も公開するよう法律が制定されるなど、透明性が徐々に増してきているため、まだまだこれからソーシャルレンディングは過熱していきます。
ソーシャルレンディングは注意すべきポイントを意識すれば大損は起こり得ません。
事業者の実績や信頼性をしっかりとリサーチした上で、ソーシャルレンディングに取り組みましょう。