
ソーシャルレンディングや不動産クラウドファンディングをはじめ、インターネットを通じて金融サービスを利用する際には、必ず「本人確認」が求められます。
近年、この本人確認はeKYC(electronic Know Your Customer)と呼ばれる、オンライン完結型の方法が主流となっています。
eKYCとは、来店や郵送を必要とせず、スマートフォンやPCを使って本人確認を行う仕組みのことです。
利用者にとっては手続きの利便性が高く、事業者にとっても業務効率化につながることから、多くの金融系サービスで導入が進んできました。
そのeKYCの中でも、これまで主流だったのが「ホ方式」です。
しかし、制度改正やデジタル行政の進展を背景に、今後は「ワ方式」が主流になっていくと考えられています。
従来、eKYCの中心だった「ホ方式」
ホ方式は、本人確認書類と本人の顔を撮影し、その情報を照合することで本人確認を行う方法です。
具体的な流れは以下のとおりです。

本人確認書類の撮影
正面から1回
斜めから1回
顔撮影
正面から1回
顔の向きを変えて1回
撮影データのアップロード
事業者側での審査・確認待ち
スマートフォンだけで完結できる点はメリットですが、
撮影回数が多く、操作も複雑になりがちなため、
撮影ミスによる再提出
手続き途中での離脱
本人確認完了までの時間の長さ
といった課題が指摘されてきました。
特に投資系サービスでは、口座開設前の離脱率の高さが問題になりやすい傾向があります。
2027年の法改正を見据えて注目される「ワ方式」
2025年2月27日、警視庁は各金融サービスにおけるの本人確認方法を、2027年4月に改正される「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(以下、犯収法)で、マイナンバーカードのICチップで読み取る「ワ方式」の「公的個人認証サービス(JPKI)」へ原則一本化する方針を発表しました。
これによって従来のホ方式を利用していた金融サービスも「ワ方式」へ対応変更することが今後求められてきました。
ワ方式とは?マイナンバーカードを使った本人確認
ワ方式とは、マイナンバーカードに搭載されたICチップ内の電子証明書を利用し、公的個人認証によって本人確認を行う方法です。

最大の特徴は、国が本人性を保証する仕組みを直接利用する点にあります。
そのため、
本人確認書類の撮影が不要
顔写真や動画の撮影も不要
なりすましリスクが極めて低い
といったメリットがあります。
このワ方式を実現するために重要な役割を果たすのが、次に紹介するデジ庁アプリです。
デジ庁アプリとは?今後広く普及する本人確認の基盤

デジ庁アプリとは、デジタル庁が提供する、マイナンバーカードを安全に読み取り、公的個人認証を行うための公式アプリです。
このアプリは、行政手続きだけでなく、民間サービスでの本人確認にも活用できる共通基盤として位置づけられています。
事業者側にとっては、
高水準のセキュリティを国の仕組みで担保できる
本人確認フローの標準化が進む
自前開発の負担を軽減できる
といった利点があり、今後のeKYCの中核を担う存在といえるでしょう。
※今後、デジ庁アプリは「マイナポータル」アプリへの連携や統合といった方向性も発信されています。
デジ庁アプリ+ワ方式による本人確認の違い
ここで、ホ方式とワ方式の手順を改めて比較してみます。
ホ方式の場合

書類撮影(正面、斜めと2回)
顔撮影(正面、顔の向きを変えて2回)
撮影データをアップロード
事業者側の審査完了を待つ
ワ方式の場合

デジ庁アプリを起動
暗証番号を入力
マイナンバーカードをスマートフォンにかざして読み取り
このように、ワ方式では手順が極めてシンプルになります。
撮影の失敗や再提出の心配もなく、本人確認がその場で完結する点が大きな違いです。
離脱率低下という大きなメリット
デジ庁アプリとワ方式を組み合わせる最大のメリットは、利用者の離脱率を大きく下げられる点にあります。
本人確認は、サービス利用前の「最初のハードル」です。
このハードルが高いほど、利用者は途中で手続きをやめてしまいます。
ワ方式によって本人確認が簡素化されることで、
口座開設までの心理的負担が減る
手続き完了率が向上する
結果としてサービス全体の利用率が高まる
といった好循環が生まれます。
まとめ:これからのeKYCは「簡単で確実」が基準に
eKYCは、単なる本人確認手続きではなく、サービス全体の使いやすさを左右する重要な要素です。
デジ庁アプリとワ方式の普及により、本人確認は今後さらに「簡単で、確実なもの」へと進化していくでしょう。
2027年の法改正を見据え、ソーシャルレンディングや不動産クラウドファンディングを含む多くのオンライン金融サービスで、
ワ方式への対応は事実上の前提条件になっていく可能性があります。
今後の動向を見据え、早い段階からワ方式とデジ庁アプリを理解しておくことが、事業者・利用者双方にとって重要になりそうです。





